〇南の国へ
ある日、発作的に南へ行きたくなった。
それも仕事中に。
よし、沖縄へ行こう!と決めた。
べつに理由なんかない。
旅の道連れは、バイト仲間のNとI。
Iは、旅行なんてほとんど経験がないらしい。
飛行機も初めてかもしれない。
嬉しくて嬉しくて、1週間前からパッキングを始めた。
「だって、国内やで、しかも2泊3日。一体何を荷造りするんやろ?」
「凄いでかい荷物もって来そうやなあ」 と私達はほほえましく見守っていた。
が。
当日の朝、一番身軽だったのは他ならぬIで、一番どでかい荷物を持ってきたのが、他ならぬこの私であった。
「一番旅慣れてる人がどうしたの!?」
と2人にゲラゲラ笑われてしまった。
たしかに、私の荷物は凄かった。トルコを一ヵ月旅した時より多かったくらいだ。
「そんなに何を持ってきたの?」
「何って・・・水着とか浮き輪とか」
「それにしても多すぎるわー!」
なんという屈辱っ・・・。
Iがべったりと窓にはりついたまま、飛行機は那覇空港に着陸した。
レンタカーのカーナビを頼りにホテルへ向かう。
全員、レンタカーもカーナビも初体験だったから、やけにテンションが高かった。
「おおっ、到着時間までわかるんや、賢いなあ」
「なんかしゃべってるで!」
感動している間にホテルへ着いた。
部屋に荷物を放り出して、さあ、遊びに行くぞ!
〇遠かった首里城
沖縄観光のメイン、首里城をめざす。
ホテルを出たのが夕方4時。
車なら15分ほどで着くはずだった。
ところが、たどり着けなかった。
ものすごい渋滞である。
進めない戻れない、にっちもさっちも行けない状態が一時間ほど続いた。
首里城は5時半で閉園である。
「あと30分じゃ絶対着かないね。どうする?」
「首里城はあきらめて、国際通りで買物しよっか」
私は泣きそうだったけど、仕方がなかった。 間に合わないと分かっていて行くのは馬鹿げている。
「首里城、一回行ったことあるけど、つまらなかったよ。何も見るもんないし」
と、N。
Nは日本史にはまったく縁のない人間だったが、私は違う。
ぜんぜん、なぐさめにならない言葉だった・・・。
〇国際通り
国際通りには、おびただしい数の土産物屋が並んでいる。
NとIは完全に買物モードに突入した。
一般に、女というものは、買物が好きなのである。
私は好きじゃないので、ひょっとしたら女じゃないかも。
ひとりで店の合間をふらふら歩いて過ごす。
土産物街から一歩入れば、庶民的な商店街が並んでいる。
服を売る店が多いのだが、これがすごい。
アロハだかかりゆしだか知らないが、気分はもうハワイ!ってな色の服しか売っていないのだ。
そういえば、沖縄の人はみんな、こんな服を着ている。
ホテルの人もお店の人もタクシーの運ちゃんも、ピンクや黄色のアロハ(みたいな)姿。
うーん南国。
だが見ていておもしろかったのは、土産物でもアロハでもなく、土地のおばあちゃん達である。
年のわりにはみんな達者だ。
店先にどーんと座って、ギロリと通りをにらんでいる。
その迫力は、シーサー(家の門や屋根に置かれている狛犬)に共通するものがあった。
しかも、何しゃべってるのか全然わからない。
髪をアップにしたおばあちゃんどうしのおしゃべりは、まったく外国語に聞こえた。
国際通りは次の日もちょっと寄ったのだが、そのとき市場にも行ってみた。
そこは、アジアの匂いで満ちていた。
タイやカンボジアの市場とまったく同じ匂いなのだ。
売ってるものも、やっぱりアジア。豚の顔とか耳とか。
ただ、市場の出入り口が自動ドアになっているところが、日本だなあと感じた。
結局、私が唯一買った土産物は、「ゴーヤーマン」だった。
ゴーヤーマンとは、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』に出てくるキャラクター商品である。
ゴーヤー(苦瓜)に目鼻がついて、ヘルメットとマントをつけたゴーヤーマン。
お爺が『ちゅらさん』のファンなので喜ぶだろうと思ったのだ。
このゴーヤーマン、すごい人気商品らしく、品切れさせる店が続出していた。
通りで一番にぎやかな辺りでは、
「ゴ−ヤーマングッズは、5000円以上お買い上げ頂いた方にだけお売りします」
という店もあり、ほとんどプレミア状態。
だが、そのすぐ隣りの店では普通に売っていたりするので、本当に品薄なのかどうかは謎だった。
〇海!
次の日は、海へ。
カーナビは結構ウソつきで、一方通行の道を逆走させたり、交叉点を過ぎてから曲がれと命じたりしていた。
それでもなんとか、残波ビーチに到着。
全身がふやけるまで泳いだ(私は主に犬かき、Nはカエル泳ぎ、Iはバタ足)。
疲れてきたら砂浜に上がって、顔以外の全身を砂に埋めたりした。
久しぶりの海で、とても楽しかった。
ただ、思ったほど海の透明度は高くない。
立った足の先が見えるか見えないかという曇り具合。
私の想像では、あくまでも透き通った海に足の下を魚が泳いでいる、というものだったから、ちょっと残念だった。
3、4時間も遊ぶと大分ふやけてきたので、海からあがってお昼を食べて、別のビーチへ行こうということになった。
目指すは万座毛。
観光名所の断崖絶壁から海を見下ろして、そのすぐ隣りのビーチで泳ぐのだ。
万座毛は、噂どおりの美しさだった。
パンフレットの写真どおり、エメラルドグリーンの海!
これぞ沖縄だ!万歳!
ここのビーチはさぞかしきれいに澄んでいるに違いない!
と、思ったら。
全然ダメだった。
ちょうど引き潮なのかどこまでも浅く、底はサンゴの死骸だらけで黒くゴツゴツしている。
ビーチサンダルを履いて海の中をぼちゃぼちゃ歩くか、しゃがんで水につかるか、どちらにしても泳ぐとかいう段階ではない。
無理に泳いだりしたら、サンゴで膝をすりむくのがオチだったろう。
その上、天気まであやしくなってきた。
真っ黒な雲がもくもくとわいてきて空を覆い、ぽつぽつと雨粒まで落ちはじめた。
「雷鳴ってる!カミナリ怖い!嫌やもう〜!」
と、雷恐怖症Iが叫ぶ。
「ちがうで。あれ飛行機の音やで」
Nは冷静きわまりなかったが、とにかくもう上がることにした。
思ったような海じゃなかったけど、楽しかったから、いいか。
〇玉泉洞
3日目は半日しかヒマがない。
わりあい近場な玉泉洞へ。
玉泉洞は東洋一の鍾乳洞らしい。
見学できる部分だけでも800m以上もあり、きれいで、迫力があった。
でも時間が早いせいかほとんど客の姿がなく、貸し切り状態。
貸し切りの洞窟って・・・ゆっくり見れていいんだけど、大きいだけに・・・怖い。
ここはテーマパークになっており、洞窟以外にもいろいろと楽しめた。
が、ポスターやのぼりなんかに、
「コレを見ないと帰れない!」
と、うたわれていた超定番・ハブとマングースの闘いを、私達は
「そんなん見んでも、帰れる帰れる」
と無視した。
時間も興味もなかったから。
その代わり、エイサー踊りを見た。
さほど期待はしていなかったのに、これがびっくりするほどよかったのだ。
Iいわく「鳥肌がたっちゃった」ほど。
何がいいって、元気がいいのだ。
思いきりの笑顔、うるさいほど威勢のいい掛け声、動けるだけ動く踊り。
2,30分踊りっぱなしだから息がきれてハアハアいってるんだけど、それでも笑顔をつくるから、ちょっと鬼気せまっていた。
見終わったあと、ためいきをついて思ったものだ。
「あんなに笑顔で仕事できるってエライな〜」
〇食べ物
沖縄の食べ物は本州の人には合わないかも、と沖縄出身の子に言われていた。
でも、何を食べてもたいていおいしかった。
アジアっぽいけどやっぱりそこが日本なんだろうな。
印象的だったのは、ゴーヤバーガー。
ゴーヤを卵でとじてパテにしている。なんて強引な料理。すさまじいミスマッチ。
だが美味しい・・・。
ソフトクリームやアイスクリームは山ほど食べた。
紅いもソフトはおいしかったので2回食べたし、サトウキビとかライチとか、忘れるくらいいろいろあった。
それでもNは、
「目標10種類やったのに!ゴーヤ味とビール味のアイス食べそこねた!」
と叫んでいた。
3日間(実質2日半)で8種類も食べたんだから満足してほしいものだ。
つらつらと文句ばっかり並べてしまったが、総体的にはかなり楽しかった。
国内旅行は楽ちんでいい。
パスポートを持ち歩かなくていいし、日本語で道をきけるし、お腹が痛くなっても日本人のお医者サンに診てもらえるんだもんな。
心残りは首里城と、シーサー。
シーサーってあの、屋根や門の上にいる、ちっこい獅子の置物だ。
味のある表情のやつもいて、すっかり気に入ったのだが、あんまり見る暇がなかった。
またひょうきんな顔を見に、ゆっくり来ようと思った。