アンジーは、車が大好きだ。

大きな事故に遭ったのに、怖がりもしない。

趣味はドライブだし、走っている車をながめるのも好き。

車庫入れをしていると、タイヤにすりよって来る。

ひかれたいか!

と何度怒鳴ったことか。

一番ひどかったのは、トランクの上(中ではない)に乗ったまま、ドライブしちゃったことだ。

車の上で昼寝していたら、そのまま走りだしちゃったんだろう。

運転をしていたおじいちゃんは、

どこかで猫がニャーニャー鳴いてる、おかしいなあと思っていたが、

信号待ちでなにげなく振り向いて驚いた。

「車の上に猫が・・・!」

後ろの車は、さぞかし笑えたことだろう。

アンジーは、よく自分から車にとびこんでいくような真似をした。

怖くないから、逃げない。

逃げないから、もちろん、またひかれる。

5年間に、3回くらいはひかれた。

せいぜい足の指をなくすくらいで、たいした事故には遭わなかったが、

何度ひかれても「車は危ない」ということを学習しないので、もう馬鹿としか言いようがない。

でも結局、交通事故では死ななかった。

奇跡のように蘇り、何度ひかれても元気だったアンジーが死んだのは、

信じられないような別の事故のせいだった。

我が家には、障害者用のエレベーターがある。

年に1度、業者がやってきて点検をする。

お客さんが大好きなアンジーは、そのときも、エレベーター屋さんを歓迎しにいった。

そしてエレベーターの機械に巻きこまれてしまった。

みんなが目を離した一瞬のスキに。

死にはしなかったが、足がちぎれ、スプラッタ状態だったようだ。

母とエレベーター業者が、暴れるアンジーを抱えて動物病院に走り、

もう一人の業者はその間に、血だまりを掃除し、ちぎれた足をきれいな箱にいれてくれた。

(かわいそうなエレベーター屋さん・・・)

足を一本切断しなければならないが、命に別状はない。

お医者さんはそう言った。

翌日お見舞いにいくと、3本足でぴょこぴょこ立っていたという。

だが、その日の夕方。

アンジーは突然死んだ。

麻酔が切れて暴れたんだそうだ。

痛くて、暴れて、点滴のチューブが首にからまって、それで窒息して死んだ。

ちょうど来院患者で忙しくなる時間帯、入院患者の部屋には、たまたま誰もいなかった。

強烈な医療ミスである。

人間なら裁判沙汰だろう。

だが、私達は怒りもしなかった。

だって、この病院は、最初の大事故のとき奇跡的に命をつなぎとめてくれた、あの動物病院なのだ。

「奇跡です」と電話をしてきた医者が、今度は「死にました」と涙を流している。

運命だったのでしょうとしか、言えなくなってしまった。

きっと、最初の事故で、寿命は尽きていたんだ。

それを私が延ばしてしまった。

何度も何度も事故を起こしたのは、もとの運命にもどそうという、引力だったかもしれない。

5年という年月は長くないけれど、その間、私たちはとても楽しかった。

多分、アンジーも楽しかったんじゃないかな。

だから、家族の誰も、恨み言を言わなかった。

・・・でも、3本足で走ってるアンジー、見たかったなあ。


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