とら、病院へ行く (1)


とらが病気になった。

えらいこっちゃ。

食べる量がへり、急にやせてきたのである。

食欲がないなんて、この20年で初めてのこと。

ただの夏痩せだったらいいのだが、トシがトシだけに心配だ。

「車にのって、病院に行こうか」

提案すると、とらは一言、

「イヤ」

と言うようにそっぽを向いた。

なだめすかしてやって来たのが、M動物病院。

アンジーがお世話になり、数々の奇跡と悲劇を巻き起こしてくれた病院だ。

とらにとっては、ほとんど生涯初の病院である。

診てくれたのは院長先生ではなかった。

若くてひょろひょろした先生が、なよなよと現われて

「 はーい今日はどうされました? 」

血液検査のとき、とらは猛烈に怒った。

「 若造が!この私に、針を刺したな! 」

と、プライドをひどく傷つけられた様子で、私の手を噛みまくった。

検査の結果、

「 腎臓がだいぶ悪い 」

と言われた。

「 猫ちゃんの場合ね、年と共にどうしても悪くなってくるんです。

そうですね、6才か7才頃からだんだんとね 」

6才?7才?ほんの子供だ。

とらは20才である。

つまりトシのせいというわけか?

「 とりあえず、皮下注射うっときますね 」

と、若先生は注射器をとりだし・・・私は目を疑った。

馬にうつのか?

それくらいバカでかい注射であった。

プライドを傷つけられたとらは、呆然と固まったまま、注射をぶすりとうたれた。

ああ、痛そう。

大量の液体が、老いて小さくなった猫に注ぎ込まれる。

「 はい、終わり〜 」

先生は、明るく針を引きぬいた。

「 しばらくは、毎日注射しに来てくださいね〜 」

これを毎日・・・!?

果たして、とらの精神力がもつだろうか?

老猫とら、生涯初の病院通いの幕開けである。

頑張れ、とら!

負けるな、とら!

その夜、異常をみつけたのは妹だった。

「 とらの、とらの左手が・・・! 」

左手が、太かった。

ぶくぶくだ。

右手の2倍にふくれあがっている。

注射で背中に射った液体が、腕の方へおりているのだということは一目でわかった。

だからべつに、痛いとか異常なことではないだろう。

ただ、可笑しいだけ。

本人は歩きにくそうだったが、私達はさんざん笑ってしまった。

ごめんよ、とら。

・・・もちろん、笑ってる場合じゃないんだけどね。

とらは、ただのトシのせいの腎臓病なんかじゃなかったのだ。

でも、この時はそんなこと知らなかった。

それは、次の検査でわかるのだった。

   


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