とら、病院へ行く (1)
とらが病気になった。
えらいこっちゃ。
食べる量がへり、急にやせてきたのである。
食欲がないなんて、この20年で初めてのこと。
ただの夏痩せだったらいいのだが、トシがトシだけに心配だ。
「車にのって、病院に行こうか」
提案すると、とらは一言、
「イヤ」
と言うようにそっぽを向いた。
★
なだめすかしてやって来たのが、M動物病院。
アンジーがお世話になり、数々の奇跡と悲劇を巻き起こしてくれた病院だ。
とらにとっては、ほとんど生涯初の病院である。
診てくれたのは院長先生ではなかった。
若くてひょろひょろした先生が、なよなよと現われて
「 はーい今日はどうされました? 」
★
血液検査のとき、とらは猛烈に怒った。
「 若造が!この私に、針を刺したな! 」
と、プライドをひどく傷つけられた様子で、私の手を噛みまくった。
検査の結果、
「 腎臓がだいぶ悪い 」
と言われた。
「 猫ちゃんの場合ね、年と共にどうしても悪くなってくるんです。
そうですね、6才か7才頃からだんだんとね 」
6才?7才?ほんの子供だ。
とらは20才である。
つまりトシのせいというわけか?
「 とりあえず、皮下注射うっときますね 」
と、若先生は注射器をとりだし・・・私は目を疑った。
馬にうつのか?
それくらいバカでかい注射であった。
プライドを傷つけられたとらは、呆然と固まったまま、注射をぶすりとうたれた。
ああ、痛そう。
大量の液体が、老いて小さくなった猫に注ぎ込まれる。
「 はい、終わり〜 」
先生は、明るく針を引きぬいた。
「 しばらくは、毎日注射しに来てくださいね〜 」
これを毎日・・・!?
果たして、とらの精神力がもつだろうか?
老猫とら、生涯初の病院通いの幕開けである。
頑張れ、とら!
負けるな、とら!
★
その夜、異常をみつけたのは妹だった。
「 とらの、とらの左手が・・・! 」
左手が、太かった。
ぶくぶくだ。
右手の2倍にふくれあがっている。
注射で背中に射った液体が、腕の方へおりているのだということは一目でわかった。
だからべつに、痛いとか異常なことではないだろう。
ただ、可笑しいだけ。
本人は歩きにくそうだったが、私達はさんざん笑ってしまった。
ごめんよ、とら。

・・・もちろん、笑ってる場合じゃないんだけどね。
とらは、ただのトシのせいの腎臓病なんかじゃなかったのだ。
でも、この時はそんなこと知らなかった。
それは、次の検査でわかるのだった。