とら、病院へ行く(4)


正直、誰も助かるとは思っていなかった。

それでもやっぱり泣いてしまった。

最初に発作を起こしたのは9月24日の晩だった。

痙攣発作は数秒で終わったが、これはもうダメだと思い、妹に電話した。

車で10分程のところに住んでいる妹は、2分で飛んできた。

そして長い間、とらを膝に抱いていたが、寝息が落ちついてきたので、

とらを挟んで川の字になって眠った。

夜が明けた。

朝も早くから宅急便が来た。

葛西の隠居さんから、アンジーの肖像が送られてきたのだった。

肖像はまるで生き写しだった。

アンジーが、とらを迎えにちょっと帰ってきたみたいだと思った。

その日一日、とらはずっとウトウトしていた。

時々意識が戻ると、よろよろと立ち上がり、どこかへ歩いていきたそうな素振りを見せた。

きっと外に出たいんだろう。

猫は人目をさけて死ぬと言うから。

私は一生懸命、「とらは家の子だから、家にいなさい」

と説得してみた。

もし歩けたら、止められなかっただろう。

だが、かわいそうなことに、もう自分で歩ける状態じゃなかった。

あじゃりが時々、心配そうな顔で様子を見に来た。

膝の上のとら

とらは一昼夜がんばった。

最期は、私と母と2人で見送った。

花でいっぱいにして、ハムエッグを添えて庭に埋めてやった。

なぜ、ハムエッグなのかと言うと。

とらがまだ子猫で、ノラ猫だった頃。

おなかが空いていたんだろう、とらは家の台所に忍びこみ、

朝ごはんのハムエッグを、勝手に食べてしまったのだ。

私たちがワーワー騒いでも知らん顔。

それどころか、そのまま家に落ちついてしまった。

出会いと別れのハムエッグなのである。

とらの食欲を示す話がもうひとつある。

とらが死んで数時間、夜が明けた頃。

母は、お墓に入れる花を切っていた。

「 ふっと振り向くとね、とらが、すーっと歩いていくのが見えたの 」

念のため言っておくが、これはとらが死んだ翌朝の話である。

「 台所の方から和室にむかって、歩いてきたの 」

台所は、とらにとって「ゴハンのある所」、

和室は「ゴハンをおねだりする所」である。

「 和室でゴハンもらおうと思って歩いてきたんやろか。

ここ何日も食べてなかったから、お腹すいてたんやろうねえ 」

と母は続ける。

「 でも、ごはんのお皿、空やってん。せっかく出てきはったのに、かわいそうに。

何か入れておいてあげればよかった 」

死してなお、食にこだわる妖怪とら子。

旅路の果てには、きっと美味しいものがたくさんあるに違いない。

思う存分食べて、私達のいくのを待ってておくれ。


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