香港 (1)


香港へ行く。
仕事で滞在中の、妹夫妻のところへ遊びにいく。

だが、来週香港へ行くんだと言ったら、友達にこう言われた。
 「ええっ、どうしたん、えらい普通のトコやん」
失礼な。私が普通の所へ行ったら悪いんか。
 「だって、あんたが何しに行くの」
たしかに私は、夜景やブランドには興味がない。
目的はただひとつ。
食べるのだ。
北京ダックを食べるのだ!


● いきなり迷子

香港到着が午後7時。
エアポートバスに乗り、尖沙咀というバス停を降りた所で、妹たちが出迎えてくれるはずだった。
だが、いない。
待ち合わせ場所に、妹の姿はないのだった。
知らない国の街路にポンと放り出された私は、いきなり迷子である。
そこは香港のメインストリートのど真ん中で、たくさんのネオンが輝き、歩道は買い物客でごったがえしている。
うーん大都会。
まいったな。
と、頭で思うだけで焦りはない。
私が旅したなかで初めてというくらい、違和感を感じさせない国だったからだ。
人々の顔立ちも服装も日本人とほとんど変わらないし、店の商品もなじみのある物ばかり。
看板だって漢字だし。
もちろん、同じというわけではない。
雰囲気が似ているだけなのだが、なんかこう、危険なまでの異国情緒がないのである。
・・・さあ外国へ来たぞ!言葉通じないぞ!スリに気をつけなくちゃ!
という緊張感がもてないのだ。
緊張感がないから、つい
 「その場所を動かない」
という迷子の鉄則を忘れ、フラフラと歩いてしまった。
その結果、妹と合流するのがさらに遅れるはめになった。
(尖沙咀のバス停は2つあり、妹は違う方で延々待っていたらしい)
まあ、結局、会えたからいいのだ。


● 困った

実を言うと、旅行記として書くことはあんまりない。
今回は本当に楽ちんだったのだ。
広東語のできる義弟と、自分の庭のごとくその辺りを案内してくれる妹にすべてをまかせ、私は後ろをついて歩くだけでよかった。
翌日には母もやって来たので、すっかり家族旅行。
気楽ですごく楽しくて、良かったんだけど、逆にいえば気が抜けてボヘーッとしていた。
一度、 
 「話のタネに100万ドルの夜景が見たい」
と妹に訴えたら、
 「函館の方がずっとキレイやで」
とそっけない。
一人ぼっちで夜景を見てもさびしいから、やめた。
何を食べてもおいしかったので、ひたすら食べてばかりいた。太った。


● 服装

私が行ったのは11月なかば、日本ではそろそろ寒くなる季節である。
しかし香港は南国だ。
あったかい。
蝶々がとんでいる。
ブーゲンビリアまで咲いている。
気分は夏、昼間は半袖で十分だ。
ところが香港の人々は思いっきり真冬のいでたちであった。
朝晩などは、ダウンジャケットやマフラーまでが大活躍。
信じられない。
暑くないんだろうか。
南国の人は寒がりだから・・・。
というより、香港人はおしゃれだから、ムリに冬服を楽しんでいるとしか思えない。
すると妹が教えてくれた。
 「ここの人はクーラーをガンガンかけるから寒いねん。クーラーは空気をきれいにしてくれるって思ってるから、真冬でもクーラーかけて、コート着るの」
・・・香港人の考え方は、かなり謎である。


● 三次元空間・香港

さっき、異国情緒がないと書いたが、あれは言い過ぎた。
ペタペタ平行に歩くだけじゃだめなのだ。
上を見上げれば、圧倒的に三次元の香港が広がっている。
2階建てバス。2階建てトラム。
そしその上に、重ならんばかりのネオン看板の群れ。(旅行のパンフレットによく載ってるやつ)
さらに上には、そそり立つ超高層ビルの絶壁。
まったく信じられないくらい、どの建物も全部が全部、超高層なのだ。
テラスや手すりがないので、すべてのビルがのっぺりした印象を与え、高い壁に両側を挟まれた気分になる。
香港は土地が狭いから、建物を高くするしかないらしい。

かくして、香港の最初の夜の印象はビルとネオンの大都会なわけだが。
翌朝、お粥屋さんを探して路地を曲がると、まったく違うチャイニーズな世界に入り込んでしまった。
活気あふれる商店街、いや、あれは朝市かもしれない。
野菜を並べる店もあれば、みずみずしい花屋もある。
線香も売っている。
おばさん達がケンカみたいに威勢よく大声でやりとりしている。

また違う路地に入ると、肉屋街のようだった。
おじさんが巨大な包丁をふるい、客が指図している。
店先には、じつにいろいろな・・・形の肉塊がぶらさがっている。
尻尾や毛がついたままになっている肉もあり、生々しいったらありゃしない。
大きさから言うと・・・なんだけど、あの毛は・・・みたいだし、一体何の肉なんだろうと、妹と2人で首をかしげた。
母を連れてこなくてよかった。
卒倒するかもしれない。


● 買い物

ブランドに興味がなくても、土産は買わなくてはならない。
そこで、あやしげな安物ばかりを売る露店街を歩いてみる。
案内してくれたタクシーの運ちゃんには、
 「あんまりお勧めしないねえ。日本人はそういういかがわしい物は嫌いなんじゃないの?」
と言われてしまったが、私達はそういうものが大好きな日本人である。
歩く隙間もないくらいびっしりと露店がならび、キャラクター商品や偽ブランドを売っている。
気になった商品を羅列してみよう。
 ・ 紫色のピカチューマスコット
 ・ 紫・白・緑・黄色の変色キティちゃん
 ・ 頭はキティ、胴体は七色の犬みたいなキャラクター人形
 ・ 手書きのキキララ
 ・ マークはswatch、でもロゴはクォーツの、どっちなんだ腕時計
 ・ ビンラディンの肖像や、ビルに飛行機が激突してる絵入りTシャツ。(NO WAR!と書いてあるがいかにも戦争万歳っぽい)
・・・誰が買うんだ、こんな物。
と思っていたら、母が嬉々として偽ブランド腕時計を買っていた。

香港では、日本の真似っこ製品や店をよく見かけた。
大きなチェーン店では
 『優の良品』
という店がある。
店の雰囲気からいっても『無印良品』の真似っこらしい。
とにかく「の」を入れたら日本的でかっこいいと思うのか、無意味な「○○の××」という店の看板がたくさんあった。
前後の意味が合わなくても気にしない。
「優の良品」では「えびせんチシプ」というスナック菓子も売っていた。
チップではなく、あくまでも「チシプ」。
この微妙な違いが香港のおもしろさではないだろうか。
それと同時に、日本にあふれかえる英語のロゴも、こんな風に間違いだらけで、外国人の失笑をかっているんだろうなあと思った。
・・・頑張れ、アジア。


● 文鳥占い

男人街で買い物をした帰りに、怪しげな通りを歩いた。
いかにも治安悪いです!という薄暗い通りだ。
お巡りさんがあちこちで目を光らせており、それがかえって危ない雰囲気を演出している。
そこにも露店は並んでいたが、見ればぜんぶ占いの店である。
浮浪者の一歩手前みたいな、しょぼくれたオヤジ小さな小屋を出し、手相、人相、姓名判断の看板をかかげている。
 「あれ、小鳥占いやで!」
と妹が指差す。
一際しょぼくれた、ちょっぴり汚らしいオヤジが、カゴの中に文鳥を飼っているのが見えた。
あれで占うのか。
おもしろそうだからトライしてみた。

床机にすわり、義弟の通訳で占いが始まる。
まず、生年月日などを聞かれた。
それからオヤジが籠を開けると、真っ白な文鳥が、「待ってました」とばかりにチョンチョンと出てくる。
そして、籠の前にな並べられたたくさんの小さなカードの上を跳ねながら歩き、ためらいもせずに、中から一枚をつっついて、くわえて引っ張り出した。
 「これよ、これ!」
と得意そうに。
出されたカードを取り上げると、オヤジは小鳥にエサをやって籠へ帰した。
カードの中には、占いの内容が書かれた紙が入っていた。
義弟の通訳によればこうだ。
『 総体運は悪くない。
  でも失敗することもあるでしょう。
  この先は、南方が吉、北方は凶です。
  けれど事態は必ず良い方へ昇ります。
  神霊があなたを助けてくれます。
  いつか花が開くように、
  幸せな結果が訪れるでしょう。』
いい占いだ。
そして意味ありげな最後の一行は・・・『 あなたの判断は間違ってはいません 』
義弟が言った。
 「あれえ、お義姉さん、悩んでることあるの?」
 「うん、それは秘密!」
良い占いは信じることにしている。
たとえそれが、インチキ小鳥占いでも。
こうして、最後の夜はいい気分で楽しく終わることができたのだった。
小鳥占いを信じて、今度の旅(いつかわからないけど)もまた南国になりそうな予感がする。


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