ちょっと鹿児島へ(2)


夕焼け色に染まった海。
沈みゆく太陽に照らされた桜島を眺めながら、車を走らせる。

やがて深い山中のそこかしこに白い煙がのぼり始める。
辺りには硫黄のにおいが漂っている、らしい。(私は鼻詰まりである)。
今夜は霧島の温泉に泊まるのだ。

楽しみにしていた露天風呂は、泥湯の温泉だった。
説明には
 「泥パックのようにして体に塗り、10分くらい乾かしてから流してください。
  お肌がすべすべになります。」
と書いてある。
 「10分なんて無理!」
と妹が叫んだ。
水仙の咲く鹿児島の冬でも、夜の露天風呂はさすがに寒い。
山の空気は肌を刺す。
だが、ここは我慢しなくてはなるまい。
お肌すべすべのために!
きれいになるために!
寄る年波に対抗するために!
寒さに耐えてパックしていたら、椿が言った。
 「きれいになっちゃった〜♪」
あんたはもとからすべすべお肌やろ!
・・・なんだか悔しいのである。

ちなみにこの子は、部屋の鏡台でワンマンショーをくりひろげ、
10曲くらいたてつづけで歌いまくった挙句にようやく寝た。
寝たと思ったら、今度はものすごい寝相でぐるぐる回りだし、私の顔を3回も蹴った。
押しやっても押しやっても、すぐにまた回ってくる。
ぐるぐる、ぐるぐる。
まるで時計の秒針だ。


二日目


朝から霧島神宮へ参拝し、清らかな湧き水を飲み、そのあとは滝を見に行ってと、
のんびりすごした午前中。
お昼ごはんの黒豚とんかつも美味しかった(口内炎が痛かったけど)。
白熊のかき氷も食べ応えがあった(食べすぎてお腹こわしたけど)。
順調・快調・絶好調な旅路である。

とどめに薩摩芋のてんぷらを食べたいと思って鹿児島駅の方へ寄った。
車を停め、駅前の商店街に入ろうとした。
ところが。
・・・何?
何、この人ごみ。
通れない。
進めない。
助けて下さい通してください、子供連れなんです!
思わぬところでもみくちゃにされ、警備をしていた警官に
 「何があるんですか」
と訊いたら「パク・ヨンハが来るんです」。
2人そろって「誰だそりゃ」。
韓流のスターらしい。
・・・知らんし・・・。
さよなら公演千秋楽に、ごった返す花のみちを通りかかった一般人のキモチがよく分かった。

お芋のてんぷらは美味でした。


○ 帰り道

今回はレンタカーを借り、2日間で230キロほど走ったのだが。
走りながら思ったことは、
・・・鹿児島の人は、安全運転だあ・・・。
たまたまかもしれないけれど、私の前を走る車はみんな制限時速を守っていた。
かなり感心した。

さてもうあとは帰るだけ。
韓国大統領が来日するということで、
空港周辺にはパク・ヨンハどころの騒ぎではない厳重な警備が敷かれていた。
検問があるから道が混む。
早め早めに町を出よう。

空港までの道案内は、カーナビ君にお任せだ!
ほんまに世の中便利になったもので。
 《約3キロを直進です》
ハイ直進。
ってー目の前が二差路なんですけど、どちらへ?
 《・・・・・・。》
カーナビは黙して語らない。
どうやら間違ったほうを「直進」してしまったらしく、新しいルートを探索するカーナビ。
 《右方向です》
行き止まりだよ。
 《左方向です》
道なんか無いって!
カーナビのお陰でますます道に迷う私であった。

私は道に迷うことは平気だ。
ぜんぜん平気だ。
・・・歩きでなら。
車はひとつ間違うと途方もなく遠くまで行ってしまうから怖い。
気がつけば何キロも彼方。
市電にぶつかりそうになるし。
とっても疲れた。
そして疲れきってたどり着いた空港では
 「伊丹空港行きのJALは予定より30分ほど遅れます」
と言われる始末。
がっかりしてレストランへ時間をつぶしにいく。
 「ご注文は?」
とたずねるウェイトレス。
私は
 「ミックスサンドを」
妹が
 「ソーセージとドリンクバー」
そして椿が
 「ビール!」
と叫んだ。
18年ほど早いから!
笑ってる間に日が暮れた。
さようなら鹿児島。


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