モンゴル (3)
4日目
予定では、前日の夕方からホームステイに行くはずだった。
観光向けでない本物のゲルに泊って、遊牧民と生活をするのだ。
それがツアーのメイン・イベントだった。
だけど私は。
ウランバートルのホテルでぶっ倒れたまんま、まだ意識朦朧としていた。
おにぎりをつくってもらい、ようやく半分ほど食べる。
いろんな人が、交代で様子を見に来てくれる。
ツアーの人は添乗員さんを含め草原に出ているので、来てくれるのはほとんどホテルの関係者だ。
「ダイジョウブ、デスカ?」
とお見舞いがてら、
「ニホンゴ、ベンキョウチュウ、オシエテクダサイ」
とやって来た売店の女の子(私と同い年だった)にはほとほと困った。
えーと、眠りたいんだけどな・・・。
ホテルが出してくれる食事は、全然、口がつけられなかった。
すべてに馬のにおい、馬乳酒のにおいが染み込んでいて、胃を刺激してしまうからだ。
美味だったのは、インスタントの卵スープ!
これは前日、ツアーの人にもらったものだ。
同じツアーの人たちは、一人参加で勝手に倒れている私をものすごく心配してくれ、いろいろと食べられそうなものを譲ってくれた。
本当に、人の優しさが身にしみる。
5日目
かなり元気が出てきた。
昼にはツアーの人たちが帰ってきたのだが、話をきいて驚いた。
なんと、ツアー参加者のほとんどが、体をこわしていた。
20人くらいのツアーだったの思うが、お腹を下していないのは2人だけ。
私みたいな状態になった人も、1人いた。
草原に医者なんていないから、ゲルでうんうん苦しんでいたらしい。
「あなたはホテルにいられたから、運がよかったのよ!」
と言われた。
最終日
馬に乗ろう。
モンゴルまで来て馬に乗りそこなうなんて、哀しいじゃないか。
オプションで、草原へ出る。
郊外で体をこわして寝たきりだった人も一緒で、2人で
「また草原に帰ってきた!」
と喜び合った。
ただ、馬を借りるには、遊牧民のゲルへおよばれに行かなくてはならない。
胃腸が逆立ちしたまんまの私にとって、臭いのきつい馬乳酒は試練だった。
もちろん、今回は口をつけたフリだけにしておく。
・・・その家には、印象的なおばあちゃんがいた。
私が体をこわしたことを知ると、背中をさすってくれたし、いろいろ話を聞かせてくれた(意味はわからなかったが)。
一家の家長が、「みんなにモンゴル語の名前をつけてあげよう」と言ったとき、おばあちゃんは、
「この子の名前は私がつけるよ!」
と言ってくれた。
「サンチマ!」
と、おばあちゃんは言った(・・・聞き違いだったらどうしよう)。
それは、チベット語で音楽の神様の名前らしい。
サンチマ、サンチマ、とおばあちゃんがひっきりなしに呼ぶので、私はおばあちゃんのそばにずーっと居た。
なんだか、やけに嬉しかった。
帰ってきて
飛行機から大阪の町を見下ろしたとき、なんて汚くてせせこましい国かと、信じられないくらい驚いたものだ。
これが私の国なんだ。
モンゴルはとてつもなく広く、ムダなものは何もなかった。
寝こんでいたとはいえ、広大な草原に慣れてしまっていたから、都会の狭苦しさに圧迫感すら感じた。
そういえば、帰りのJRで、バイト仲間に会ってしまった。
「あ、お帰りー!」
と手を振ったものの、彼女はそこで止まっていた。
あとで聞いたら、私の見事な痩せっぷりに、なんと言葉をかけていいか分からなかったのだと言う。
今でも私は、ダイエットに苦しむ友達を見ると『モンゴルツアー・馬乳酒ダイエット』をすすめてみる。
ちょっと命がけだけれど。
体が治るのにはしばらくかかった。
今回お世話になった添乗員さん、ガイドさん、ツアーの皆さんにはいくらお礼を言っても言い足りないくらいだ。
でもなんとかお礼を・・・と思っているうちに、旅行会社がつぶれてしまった。