アジア(2)


猫の町、クチン!


クチンは、マレー語で「猫」という意味の町だ。
あまりにも猫が多くてそんな名前がついたらしい。
猫好きにとっては、それだけで行く価値のある町ではないだろうか。

憧れのクチンは・・・・雨季だった。
しょぼしょぼと梅雨のような雨が降りまくっている。
仕方がないから、暗くて狭いジャスコみたいな店で、オヤジくさい安物のジャンプ傘を買った。

2日目に雨があがった。
カメラを携え、猫さがしの始まりである。
噂にたがわず猫だらけのクチン。
猫博物館まであり、猫のミイラから「なめんなよ猫」、韓国のニセ物キティに至るまで、ありとあらゆる猫が並んでいる。
もちろん野良猫もうようよしている。
猫を撮っていると、笑われるどころか喜んでもらえる。
いい町である。

猫に次いで会いたかったのがオランウータンだ。
クチンは、オランウータンの故郷・ボルネオ島の一角にある町。
せっかくだから本場のオランウータンに会ってみたい。
そこで現地ツアーに申し込んだ。

マタン・ワイルドライフセンターは、ジャングルに囲まれた動物園だ。
・・・したたる雨、ぬれて光る木の葉、足元をとぶ蚊とカエル、風が吹くたびにざわめく雨だれ。
森の奥からは奇妙な鳥の鳴き声が聞こえてくる。
雨のジャングルは風情がある。

風情がありすぎて、ぬれすぎて、風邪をひいてしまった。
ゴホゴホ、ゼイゼイ、ヒューヒュー・・・
風邪を通り越して、ちょっとした喘息の発作だ。

町の薬局で、カゼ薬と咳止め、下痢止めを買った。
どれも100〜120円くらいで、異様に安いのが気になるところ。
それでも効果はてきめんで、だんだんと熱が下がり、やっとうとうとしかけた、その時
  ジリリリリリリン!
電話が鳴った。
誰だ。
 「ハロー!
 私、××(義弟の名前)の叔母さんよ。
 クチンに来たから様子をみにきたの。
 今から部屋に行ってもいい?」
・・・なんて親切な人たちだろう。
ポポ家の親切心は心底ありがたいが、今は相手をする体力がなかった・・・。


国境越え


クチンから一旦クアラルンプールに戻り、そこから陸路を北上する。
乗ったのは、タイのハット・ヤイまで行く国境越え夜行バス。
およそ10時間のバスの旅。
バスはおんぼろで、がたがた揺れ、何度か座席から放り出された。

一睡もできないまま国境にたどり着いたのは、まだ暗い朝だった。
出国カウンターに列をつくる。
出入国の手続きは空港とまったく同じなのに、旅行者は少ない。
ほとんどが地元民。
買い物にでも行くような軽装だった。
「ちょっとそこまで」出かけるのに国境を越えるなんて、なんて面倒くさい話だろう。

出国に続いて、今度はタイ側の入国審査を受ける。
係員が、マレーシア側ではバリバリのイスラム教徒の格好だったのに、こちらへ来ると、タイ王室カレンダーを大事に飾っている。
距離にすればほんのわずかなのに、ここはもう違う国なのだと実感する。
国境って不思議だ。

こうして無事、タイに入った。
病み上がりの徹夜だから、少しフラフラしている。
とにかく宿をとらなければ。
客引きに捕まったのをこれ幸いと、安ホテルを紹介してもらう。
だが・・・円形のダブルベッド。
ぐるっと取り囲む鏡。
そしてピンクのフリフリ。
・・・これ、ラブホテルやん!
あてにならないから、自分で探した。

自分で探したホテルは、暗くて古くて、エレベーターの階数を示すランプがふらふら揺れていた。
寝るには十分だったが、なんか出そうだったので、一泊だけにしておいた。


海辺の町、ソンクラー


一休みすると、元気が出た。
なぜか急に海が見たくなった。
正確には、海をバックに猫を撮りたくなった。

それではと、海辺の町ソンクラーへ向かう。
タクシー乗り場で「ソンクラー!」と叫んだら、有無を言わさず相乗りタイクシーへ押し込められた。
私は助手席に、女の子と2人がけで座った。
ぎゅうぎゅうである。
振り返ると、後部座席にはおばちゃんが4人座っていた。
小さめの乗用車に、運転手を含め計7人。
きつい90分であった。
相乗りのおばちゃん達は、外国人が珍しいのか懸命に何か話しかけてくる。
それが曲りなりにも英語だということに気づいたのは、もうタクシーを降りる寸前だった。
おばちゃんは、
 「あんたに会えてよかった」
と言い、何度も何度も
 「SEE YOU、SEE YOU」
と繰り返していた。

そして、こんなぎゅうぎゅうの思いをしてたどり着いたにもかかわらず、猫は海辺にはいなかった。
そうだよな・・・猫って、水、キライだもんな・・・。


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