エジプト(3)


 ミイラのこと


ミイラに会ってきた。
ルクソールのミイラ博物館で1人。
カイロ博物館で10人くらい。

ミイラとは、早い話が人間の干物である。
ふさふさと残る白い髪の毛、燻製みたいに硬く皺だらけになった茶色の肌。
ぼろぼろの指先。
体は包帯に巻かれていても、
かつては生身の人間だったことを証明するかのような、はっきりとした目もと。
今にも声をあげそうな半開きの口。
・・・とっても怖い。
私は思わず手を合わせ、「南無阿弥陀仏」と唱えてしまった(怒られるかも)。

彼らは昔、王様だった。
トトメス2世、ラムセス2世、セティ1世、などなど、
歴史に名を刻んだそうそうたるファラオたち。
偉大な業績を残した人々。
ところが彼らの墓は暴かれ、盗まれ、現代になってまた発掘され、
彼らのミイラは今や・・・見世物である。
またもや失礼な言い方だけれど。
ケースに入れられ「陳列」されて、入場料をとってみんなに見られている。
 「まさか日本人の私らに見られることになるとは、思ってなかったやろな」
とナオミが言った。
なんだか不憫で、お布団かけて顔をかくしてあげたい気持ちになってしまう。

そんな彼らが、息をしたり話したり、食べたり飲んだり結婚したり戦争したりして、
生きていたのは3千年以上も前の話である。
3千年!
なんて途方もない時間だろう。
3千年、ミイラになった彼らはずっとここで死に続けているのだ。
変な言葉だし、死者に対して失礼だと分かってはいるが、
でもそう思ってしまった。
死に続けていると。
死後の復活を信じていた彼らの魂は、冥界の楽園に蘇ったかもしれない。
でも肉体はこのままだ。
天に昇らず、
土に帰らず、
大いなる川に流れてもいかず、
ずっとずっと永遠に近い時間を留まり続けている。
・・・永遠。
恐ろしい言葉である。
彼らが信じていたように、いつか復活の日がくることを祈ろう。

ちなみに、怖いせいか言葉すくなに通りすぎながらも、ナオミは
 「『足の人差し指が長い人は出世する』っていうけど、
  偉大な人たちのミイラはみんな人差し指が親指より長かったよ」
と、妙に細かいところをチェックしていた。


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