遺体を火葬した灰を川に流すのはガンジス川の専売特許かと思っていたが。
そうじゃないらしい。
カトマンズのパシュパティナート寺院で、火葬場を見た。
たくさんの人が見守る中、白い煙があがっているのがそうだろうと行ってみると。
ちょうど・・・燃え尽きたらしい。
寺男が、一山の灰をざあざあ流し始めた。
ホウキで流し。
水で流し。
それでも残った灰を・・・足で蹴り込む!
キック、キック!
おらおら落ちんかい!
乱暴な火葬もあったもんだ。
しかしホトケ様を足蹴にするおっさんの表情は淡々としている。
流す先は、毎度おなじみ真っ黒な、ドブ川。
言語を絶するほどの汚いヘドロ川である。
ペットボトルや紙くず、ビニール袋なんかが山のように浮かんでいる。
中州の岩には野生のサルがちょこなんと座り、うんこをしている。
そこへ流された、元人間の灰は、見る間に黒い流れへとのみこまれていった。
・・・人間って、こんなに何もなくなってしまうものか。
とても儚いキモチになった。
それから数日後、私はカトマンズから国内線でネパールの南端まで移動した。
インド国境に近い町に宿をとる。
目指すはルンビニ。
ブッダが生まれた場所である。
残念ながらルンビニそのものは・・・遺跡とか石柱とか、ちょっとピンとこないものだった。
遺跡に残る足跡を指差して、
「これがブッダの足跡だ!」
と言われても、そんなん、絶対ウソや。
ほどほどに観光を終えた6時すぎ。
聖園のゲートをくぐって町へ戻るバス停に向かった。
小さなチャイ屋でおばちゃん達とおしゃべりしながらバスを待つ。
「へーえ、日本から来たのかい」
「ルンビニは気に入ったかね」
「バス? ああ、もうじき来るだろう」
「あと5分くらいかね」
地元民のいうことだから信用して待ち続けた。
あと5分。
あと5分。
あと5分。
チリリリン、とサイクルリクシャー(自転車タクシー)がベルを鳴らして私を呼んだ。
「あんた馬鹿だなあ、バスなんか来るわけないよ。6時までで終わりなんだから」
なんだとお!
また騙しやがったな!
「バザールまで行けば町へいくバスがあるだろうがね」
ということで、リクシャーに乗ってバザールのバス停へ向かうことにした。
半袖で寒がっていたら、運ちゃんがぼろぼろのジャケットを貸してくれた。
ネパールの夜は早い。
日が沈むとソッコーで夜がやってくる。
電気があまりないから、6時半くらいで閉めてしまう店も多いのだ。
バザールも店じまい。
町へのバスは何台か来るものの、殺人的に混みあっている。
「これは乗れないなあ」
運ちゃんがぼそりと呟いたとき、救いの神様があらわれた。
「町へいくの?」
彼は自分もバイクで町に帰るところだから、乗せていってあげるよ、と言う。
そのへんのおっちゃんにすぎなかったけど、私にとっては神様だった。
だって彼は
「お金? 要らないよ。ただの人助けだよ」
と言ったのである。
そこはインドに隣接した町だった。
半分インドだといってもいい。
そしてインド人といえば・・・はっきり言えば、悪どい。
外国人と見ればあらゆる手段でお金を騙し取ろうとする人がたくさんいるのだ。
悪口に聞こえるかもしれないけど、ウソつきも多い。
カトマンズなどのネパール人から
「インド人はクレイジーだ」
と何度、聞かされたことだろうか。
それなのに、インドとネパールが重なり合った土地にあって、彼は本物のネパール人だった!
本当にタダで送ってくれたのである。
しかも自分の家よりはるかに遠い、私のホテルまで。
夜、それも半袖でバイクの風に吹かれる乗るのは、哀れなほど寒かったけど。
なにしろ宿へ帰れるのだ。
心底ありがたかった。
牛やヤギの群れを器用によけながら走り、バイクは1時間ほどかけてスノウリの町へむかった。
時折、集落を通りかかると、ぽつぽつと赤い火が見えた。
電気が通っていないらしい。
暗闇に浮かび上がる小さなロウソクの炎。
火とはあんなに赤く、あったかいものなのだと思った。
戦い滅ぼしバスを焦がすのも、人間を火葬にするのも、この町の灯りも。
同じ火なのだ。
2500年の昔、ブッダとその弟子達も、ああやって火を囲んでいただろうか。
夜空をみあげれば、細い月のまわりを小さな星たちが取り巻いていた。