ネパールから、陸路、インドへ入る。
イミグレーションはそのへんのタバコ屋みたいな建物だった。
店番みたいなおっさんに、ポンとスタンプ押してもらって
「ウェルカム トゥ インディアー」
てなわけである。
さあ、ここからが大変だ。
なにしろインドである。
前日手配した切符をもって長距離バスの停留所へむかったが
「その切符はバスナンバーが書いてないから無効だよ。もう一度、買いなおして」
「荷物、トランクに入れたの? じゃあと140ルピー追加ね」
さくさくさくさく、お金を騙し取られていく。
紛れもなくインドへ入ったことを実感する。
・・・負けないぞ!
国境からバスで11時間かけて、ヴァラナシ(ベナレス)へ向かう。
長距離バスで唯一ホッとできるのがドライブインでの休憩だ。
だが私は、そのドライブインで命にかかわる大事件に遭ってしまったのである。
それはトイレでのできごと。
ドライブインのトイレなんて観光地じゃないから、外国人向けに作られてはいない。
穴だけトイレに間仕切りがあるだけだったりする。
だってインドだから。
だが一度だけ、ドアのあるトイレが出現したのである。
しかも!
鍵がついている!
遠くからそれを見てとった私は、嬉しさのあまり、走っていって一番にそのトイレに籠もった。
そうしたら。
・・・開かないのである。
鍵(チェーン)が知恵の輪のようにはまりこんでしまって、押しても引いても動かない。
なんということか。
閉じ込められてしまった。
暗くて臭くてハエがぶんぶん飛ぶトイレで考えた。
もうすぐバスは出発するだろう。
騙されて乗ったバスだから、私なんか置いていかれるに違いない。
そのうち夜がきて・・・食べるものも飲むものもなく・・・ハエだらけのトイレで私は・・・誰にも気づかれないまま・・・。
「ヘルプミー!」
叫んでみた。
扉をがたがたゆすってみた。
そしたら、こんなインドの片田舎でトイレに閉じ込められてヘルプミーなんて言うてる自分がおかしくて、おかしくて、笑いが止まらなくなってしまった。
・・・私ってば、みっともなー!
ただただ、笑えた。
ヘルプミーが聞こえたのか、笑い声が大きかったためか、さすがに周りの人が気がついて外から引っ張ってくれた。
それでドアはようやく開いた。
明るいところへ出てから気づいたのだが。
ドアと奮闘した時に擦れたのだろう、指から血がでていた。
インドで鍵のあるトイレになんか入るものじゃない。
それでもなんとか夜にはヴァラナシ(ベナレス)に到着した。
無事の到着を祝ってビールを頼んだ。
お風呂上りにキングフィッシャーをラッパ飲みしつつ、ケガした指にバンソウコウを貼りながら、
「インドに負けないぞ!」
と改めて誓うのであった。